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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)5667号 判決

原告

中村武男

ほか一名

被告

山口こと古川博志

ほか二名

主文

(一)  被告古川博志、同山口喜久男および同榎本計晃は各自、原告中村武男に対し金一九五万七、五六七円、同大山時男に対し金二八万三、三三三円および右各金員に対する昭和四八年七月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  原告らの右被告らに対するその余の請求および被告山口自動車販売株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

(三)  訴訟費用は、原告らと被告古川博志、同山口喜久男および同榎本計晃との間においては、原告らに生じた費用の二分の一を右被告らの連帯負担、その余を各自の負担とし、原告らと被告山口自動車販売株式会社との間においては全部原告らの連帯負担とする。

(四)  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

(一)  被告らは各自、原告中村武男に対し金二六七万六、九五一円、同大山時男に対し金三二万〇、八三三円および右各金員に対する昭和四八年七月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

(一)  被告榎本の答弁

原告らの請求をいずれも棄却する。

(二)  被告榎本を除くその余の被告らの答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  事故の発生

昭和四七年六月二〇日午後四時二五分頃東京都西多摩郡瑞穂町大字石畑二一四番地先の信号機のない交差点(以下「本件交差点」という)において、南側新青梅街道方面から本件交差点にさしかかつた被告古川運転の自動車(横浜五み八七六三号――以下「甲車」という。)と、国道一六号線方面から右交差点にさしかかつた被告榎本運転の自動車(多摩四や八〇三六号――以下「乙車」という。)とが衝突し、このため、甲車に同乗していた原告中村および同大山が負傷した。

(二)  被告らの責任

1 被告榎本は、乙車を所有し自己のため運行の用に供していたものである。

2 被告古川は、前記交差点付近の道路両側に樹木が繁茂していて左右道路の見通しが困難であるから、交差点に進入するに際しては、最徐行するか一時停止して左右道路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然時速三〇粁の速度で交差点に進入した過失により、本件事故を惹起したものである。

3(1) 被告山口は、甲車を買い取り、販売品として自己の支配下に置いて、これを自己のため運行の用に供していたものである。

(2) 同被告は、被告古川を雇用していたものであるところ、本件事故は同古川が同山口の業務執行中に前記過失により惹起したものである。

4 被告山口は、本件事故当時「山口自動車販売」の商号で、自動車の販売、修理および鈑金塗装等の業務を営んでいたものであるが、被告山口自動車販売株式会社(以下「被告会社」という。)は、昭和四八年二月九日被告山口の右営業を譲り受け、自動車の販売、修理等の事業を営むことを目的として設立された会社であり、被告山口が使用していた右商号を続用しているものであるところ、被告山口の原告らに対する本件損害賠償債務は同被告の前記営業に因つて生じたものである。

(三)  被告らの損害

1 原告中村の損害 金二六七万六、九五一円

(1) 原告中村の傷害

原告中村は、本件事故により頭部外傷(頭蓋骨骨折)、頸椎挫傷、胸部打撲傷、左鎖骨骨折、左恥骨骨折の傷害を負い、昭和四七年六月二〇日から同年一二月四日まで入院治療した。

(2) 付添看護料 金一〇万四、四〇〇円

原告中村の妻が昭和四七年六月二一日から同年九月一五日までの八七日間同原告の付添看護をしたので、その費用としては一日当り金一、二〇〇円合計金一〇万四、四〇〇円が相当である。

(3) 逸失利益 金一九七万二、五五一円

原告中村は、昭和四五年五月頃から訴外有限会社須貝建設(以下「訴外会社」という。)の専属的下請けとして常時一二、三名の労務者を雇用して建設業務に従事していたが、訴外会社からの受注高は、昭和四六年が金一、八七六万八、四一〇円であり、本件事故に遭遇した昭和四七年は金七八〇万九、七九〇円である。右業種においては、利益率は受注高の一八パーセントとみるのが相当であるから、原告中村の昭和四六年の実収入は金三三七万八、三一三円であり、昭和四七年のそれは金一四〇万五、七六二円であつて、前年より金一九七万二、五五一円減収となつている。これが同原告の本件事故による損害である。

(4)慰謝料 金六〇万円

2 原告大山の損害 金三二万〇、八三三円

(1) 原告大山の傷害

原告大山は、本件事故により頭部外傷、頸椎挫傷、胸部打撲傷の傷害を負い、昭和四七年六月二〇日から同年七月一一日まで入院治療したのち、同月三一日まで自宅療養した。

(2) 休業損害 金一七万〇、八三三円

原告大山は、同中村に労務者として雇用されていたが、右負傷のため、昭和四七年六月二一日から同年七月三一日までの四一日間は全く仕事ができなかつた。

同原告の如き労務者においては、日当金五、〇〇〇円で月間就労日数二五日とみるのが相当であるから、これにより算出すると、金一七万〇、八三三円が同原告の損害となる。

(3) 慰謝料 金一五万円

(四)  結論

よつて、被告ら各自に対し、原告中村は金二六七万六、九五一円、同大山は金三二万〇、八三三円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和四八年七月二九日から支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

(一)  被告榎本の答弁

1 請求原因(一)の事実を認める。

2 同(二)1の事実を認める。

3 同(三)1のうち、(1)および(2)の事実を認め、(3)の事実は不知、(4)の慰謝料額を争う。

同(三)2のうち、(1)の事実を認め、(2)の事実は不知、(3)の慰謝料額を争う。

(二)  被告榎本を除くその余の被告らの答弁

1 請求原因(一)の事実を認める。

2 同(二)の2ないし4のうち、被告山口が同古川を雇用していたこと、同被告が甲車を買い入れたこと、被告山口および被告会社の営業内容、被告会社が被告山口から営業を譲り受け、同被告の商号を続用していることを認め、その余の事実を否認する。

被告山口は、本件事故当時スナツクを開店する準備をしており、被告古川をスナツクで働いてもらうために雇い、事故当時もスナツク開店の準備のための仕事に従事させていた。ところで、被告山口は、以前から原告らから貸家があつたら数えてほしいと依頼されていたところ、たまたま本件事故当日訪ねて来た原告らから、貸家まで案内してほしいと頼まれたため、同古川に命じて原告らを案内させる途中に本件事故が発生したものである。従つて、被告古川は、本件事故当時、同山口の事業とは何らの関係もなく、ただ単に出稼ぎの地理不案内の人が地理案内を求めたので、親切心で案内のため甲車を運転していたにすぎないもので、到底被告山口の業務執行中であつたとはいえない。

3 同(三)、1のうち、(1)の事実を認め、その余の事実は不知、

同(三)、2のうち、(1)の事実を認め、その余の事実は不知。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因(一)の事実は各当事者間に争いがない。

二  被告らの責任

(一)  被告榎本の責任

被告榎本が乙車を所有し自己のため運行の用に供していたことは、同被告との間において争いがない。

(二)  被告古川の責任

〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場付近の道路は、非市街地にあり、その状況は、別紙現場見取図記載のとおりで、本件交差点から国道一六号線に至る道路の南側には同図面記載のとおり茶の木が植えてあつて、この道路と本件交差点から南方に至る道路との見通しは、相互に不良となつている。なお、最高速度が四〇粁毎時に制限されているほかは、特別の交通規制はなされていなかつた。

被告古川は、甲車を運転して時速三〇粁位の速度で新青梅街道方面から青梅街道方面に向けて北進し、本件交差点付近に至り、前記のとおり国道一六号線方面に至る道路に対する見通しが悪いため、速度をやや減じてそのまま本件交差点に進入したところ、その直後、国道一六号線方面から本件交差点に時速四〇ないし五〇粁位の速度で進入した被告榎本運転の乙車に衝突された。

以上の事実が認められ〔証拠略〕はたやすく措信しがたく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。右認定事実によれば、被告古川としては、左方道路に対する見通しの悪い本件交差点に進入する際には、最徐行ないし一時停止してその安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠り、速度をやや減じただけで漫然本件交差点に進入した過失があるものというべきである。

(三)  被告山口の責任

〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

被告山口は、後記のとおり本件事故当時中古車販売をも業としていたところ、本件事故当日自動車のセールスマンから中古車である甲車を、販売するために購入して代金を支払い、譲渡書その他名義変更に必要な書類とともに同車の引渡を受けた(甲車購入の事実は被告榎本を除くその余の被告らとの間において争いがない。)。

ところで、被告山口は、昭和四六年七月頃原告中村に自動車を販売したことがある関係で、同原告を知つており、同原告から本件事故の一、二ケ月前に適当な貸家があつたら紹介してほしいと依頼されていたところ、本件事故当日、原告大山とともに自動車で来訪した同中村から貸家の件をよろしく頼むと言われ、被告山口の甥であり、かつ従業員である同古川に心当りを案内させることとした。その際、原告中村が乗つて来た自動車にはタイヤが積んであつて、二人しか乗車できないので、被告古川が、同山口の指示により、たまたま近くにあつた購入したばかりの甲車を運転し、原告両名を同乗させて、付近の家作を案内している途中に、本件事故を惹起した(被告古川が同山口の従業員であつたことは、被告榎本を除くその余の被告らとの間において争いがない。なお、被告山口が同古川に加害車を使用させたのが、原告らの依頼によるものか、被告山口が自発的にしたものか証拠上必ずしも明らかでない。)。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。右事実によれば、被告山口は、本件事故当時甲車を自己のため運行の用に供していたものであるというべきである。

(四)  被告会社の責任

被告山口が、本件事故当時「山口自動車販売」の商号で、自動車の販売、修理および鈑金塗装等の業務を営んでいたこと、被告会社が、昭和四八年二月九日被告山口の右営業を譲り受け、自動車の販売、修理等の事業を営むことを目的として設立された会社であり、被告山口が使用していた右商号を続用していることは、被告会社との間において争いがない。

原告らは、被告山口の原告らに対する本件損害賠償債務が同被告の営業によつて生じたものであると主張するが、右(三)において認定した事実だけでは原告らを甲車に同乗させて家作の案内をしたのは被告山口の好意によるものであると認められ、その過程において生じた本件事故による原告らに対する被告山口の損害賠償債務は、未だ同被告の営業に因つて生じたものということはできず、他に右事実を認めるべき事情を認定するに足りる証拠はない。

右のとおりとすると、原告らの被告会社に対する請求は、いずれも理由がないというべきである。

三  原告らの損害

(一)  原告中村の損害 金一九五万七、五六七円

1  原告中村の傷害

原告中村が、本件事故により頭部外傷(頭蓋骨骨折)、頸椎挫傷、胸部打撲傷、左鎖骨骨折、左恥骨骨折の傷害を負い、昭和四七年六月二〇日から同年一二月四日まで入院治療したことは、各当事者間に争いがない。この事実によれば、同原告が本件事故のため、事故当日から同年末日まで全く就労できなかつたものと推認される。

2  付添看護料 金一〇万四、四〇〇円

原告中村の妻が昭和四七年六月二一日から同年九月一五日までの八七日間同原告の付添看護をしたことは、被告榎本との間においては争かがなく、その余の被告らの関係では、〔証拠略〕により、右事実が認められる。右事実および前記原告中村の傷害の程度によれば、同原告に対する付添看護料としては、一日当り金一、二〇〇円合計金一〇万四、四〇〇円が相当であると認められる。

3  逸失利益 金一一五万三、一六七円

〔証拠略〕によれば、原告中村が建設業を営み、常時一二、三人の職人を雇つて訴外会社の専属的な下請として、主としてコンクリート工事の型枠工事をしていたこと、工事の材料費を訴外会社が負担し、原告中村が同会社から、二五日締切、翌月五日払を原則として、職人の賃金を含めた労務賃の支払を受けていたこと、原告中村が同会社から得た労務賃が別紙労務賃一覧表記載のとおりであること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、原告中村が本件事故に遭遇しなければ、同原告が昭和四六年一月から同年七月までに得た金八〇六万四、五二〇円に対する昭和四七年一月から同年七月までに得た金七三一万七、六四〇円の割合を昭和四六年八月から同年一二月までに得た金一、〇七〇万三、八九〇円に乗じた分程度を昭和四七年八月から同年一二月までに得られるはずであつたものと推定される(なお、昭和四六年および昭和四七年の各一月に収入が零であるところから、毎年一二月に働いた分は翌年一月に支払われず、その年の一二月に支払われたものと推定される。)そうとすると、本件事故により原告中村が休業したことにより、金九二二万円程度同原告の売上が減少したものというべきである。

そこで、必要経費についてみるに、〔証拠略〕によれば、大工道具代はすべて同原告が購入し、その費用として年間金五〇万円程度を要すること、また同原告が普通乗用車およびライトバン各一台を所有して業務用に使用しており、二年に一台の割合で新車に買い替えていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右のうち、自動車については、その価格についての証拠が全くなく、かつ、六ケ月間位休業して使用しなかつたからといつて、耐用年数がそのまま六ケ月間伸びるとも考えられず、そうかといつてその伸長期間が如何ほどであるかの点について全く不明であるので、この分を必要経費として控除するのは相当でない。そこで右のうち大工道具代のみを控除の対象とする。

また、前記のとおり、原告中村の売上から職人の労務賃を支払うべきものであるところ、〔証拠略〕には、本件事故当時職人の賃金は一日当り平均金五、〇〇〇円位であり、一ケ月間に二五日間は稼働可能であつたとの部分があるが、このとおりとすると、原告中村は一年間に合計金一、八〇〇万円程度を支払わなければならないこととなり、昭和四七年においては勿論、昭和四六年においても同原告の取り分は零に近くなる計算になり、如何にも不合理であつて、右部分をたやすく措信しがたい。また〔証拠略〕には、原告中村の純利益は売上高の二割程度であつたとの部分があるが、右部分は具体的根拠に乏しく、かつ右に述べた事情にてらしてたやすく措信しがたく、他に同原告がその職人に如何ほどの賃金を支払つていたかを認めるべき直接の証拠はない。

そこで、当裁判所に顕著な労働者の昭和四六年および昭和四七年の賃金構造基本統計調査による平均給与額を参酌し、職人一名当りの年間賃金を金一二〇万円程度、合計金一、四四〇万円と推定する。

右に述べたところによれば、原告中村の昭和四七年における年間売上高は金一、七〇二万九、七九〇円、その必要経費は金一、四九〇万円であると推定されるところ、必要経費を売上高に応じて配分すると、金九二二万円の売上をするためには金八〇六万六、八三三円の経費を要することになるので、結局同原告の休業損害は金一一五万三、一六七円となる。

4  慰謝料 金七〇万円

前記傷害の程度、治療状況、加害車に同乗した経過等諸般の事情に鑑み、原告中村に対する慰謝料としては、金七〇万円が相当である(なお、慰謝料については、認容総額において請求額を超えない限り、原告の主張額には拘束されないものと解する。)。

(二)  原告大山の損害 金二八万三、三三三円

1  原告大山の傷害

原告大山が、本件事故により頭部外傷、頸椎挫傷、胸部打撲傷の傷害を負い、昭和四七年六月二〇日から同年七月一一日まで入院治療したのち、同月三一日まで自宅療養したことは、各当事者間に争いがない。この事実によれば、四一日間同原告が全く就労できなかつたものと認められる。

2  休業損害 金一三万三、三三三円

〔証拠略〕によれば、同大山が本件事故当時二〇才で、同中村に雇用されていたことが認められる。また、右本人尋問の結果には、原告大山が同中村に雇用されている職人中の平均値程度の日当を得ており、最低でも金五、〇〇〇円を下らず、一ケ月に二五日位は稼働できたとの部分があるが、既に述べた理由により右部分を直ちに全面的に措信することはできず、他に原告大山の収入に関する直接の証拠はない。〔証拠略〕をも参酌し、当裁判所に顕著な労働者の昭和四七年賃金構造基本統計調査による平均給与額をも参考として、同原告の月収を金一〇万円程度と推認し、本件事故による休業損害を金一三万三、三三三円と推定する。

3  慰謝料 金一五万円

前記認定の諸事情に鑑み、原告大山に対する慰謝料としては金一五万円が相当であると認める。

四  結論

以上述べたところによれば、原告らの本訴請求は、被告古川、同山口、同榎本各自に対し、原告中村が金一九五万七、五六七円、同大山が金二八万三、三三三円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年七月二九日から支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し、右被告らに対するその余の請求および被告会社に対する請求をいずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六案を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 瀬戸正義)

別紙 労務賃一覧表

〈省略〉

別紙 現場見取図

〈省略〉

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